Tatsuya Nishiwaki Official Website

INFORMATION

用語解説#01

2021年09月11日(土) 16:04:12
2021年4月より始まったNHK FMの音楽番組「ディスカバー・クイーン(毎週日曜日21時~22時)」。毎月第1週と第2週に出演させていただいています。

QUEENはその時代時代の楽器、機材、スタジオの設備、そしてバジェット等の限られた条件の中で、常に理想の音楽を実現させるための方法を創意工夫し続けていた、と聞きます。

そんなクイーンの音楽を子供のころから聴き続けていたことも影響してか、私は作編曲家、音楽プロデューサーとしてプロになってからも、幸運にも、ありとあらゆる実験的なレコーディングを数多く行い、様々な経験をさせていただきました。そしてアナログからデジタル、磁気テープからハードディスク、といった激動の技術の進化を目の当たりにしてきました。

そのため、あの複雑な工程を経て作られたクイーンの音楽を聴いて、新しい発見をするたびに、「この音はこう作ったんじゃないか」とか、「この音楽は○○を○○に発展させて作ったものなんじゃないか」といったサウンドやアレンジメントの処方箋が自然と頭に浮かぶようになったんです。

そんな私が今まで得てきた発見や驚きを皆さまと楽しく共有できるよう、番組にかかわらせていただいています。

前置きが少々長くなりましたが、このページでは、そんなディスカバー・クイーンの中に登場する専門用語、音楽用語を解説していきたいと思います。書籍やネットからの引用はせずに、できる限り自分の言葉で、わかりやすく書いていこうと考えています。番組共々、こちらも是非お楽しみいただければ幸いです。

まずは、

マルチトラック・レコーダー(multi track recorder)

レコーディングには欠かせない録音機器。MTRなどと略されたり、日本ではもっと短く省略されて「マルチ」なんて呼ばれていました。下の画像はQUEENが使っていたものと同じメーカーのもの。



2インチ(約5センチ)の太さの磁気テープを使って、QUEEN、QUEENⅡまでは16トラック、Sheer Heart Attackからは24トラックの録音が可能でした。また1980年代以降はデジタル化が進んで、48トラックのものも登場しました。

トラックというのは、陸上のトラックのようにテープの上に、24トラックなら24車線の道ができていて(目には見えませんが)その道にそれぞれ別の音を録音していけるんです。2インチの幅に24車線ですから1車線あたり2ミリちょいという大変細い道ですね。

全てのトラックは個別に録音モードか再生モードを選ぶことができます。ですから全てのトラックを録音モードにして、24人のオーケストラを同時に団員一人につき1トラックで合計24トラックに録音することもできれば、たった一人の演奏者が24回多重録音して24人分の演奏を録音することもできます。

この機器の登場は、レコーディングの世界に革命を起こし、QUEENのみならず、10ccやElectric Light Orchestra、Mike Oldfield、日本でも冨田勲先生等、多重録音の権化のようなアーティストを多数輩出させました。

現在では、磁気テープはほぼ使われなくなり、2000年ごろからPCをベースにしたDigital Audio Workstation(DAW)(ダウって読んだりします)が主流となっていて、マルチトラックレコーダーという言葉は使われなくなりました。このDAWはPCのスペックが許す限り無限にトラックを用意できるので、技術的には1970年代のQUEEN以上の超絶豪華多重録音ができるはずなんですが、なかなかそんなアーティストは現れませんね。